【コラム54:エンパワーメントって何だっけ?】

 近年、Post intensive care syndrome(以下:PICS)という考え方が広がり、ICU在室中から退院後の生活を見据えた医療・ケア提供が必要だとされています。そのため、筆者は看護師という専門職の視点で患者の「生活行動の再獲得」についてより深く考えるようになりました。 さて、その「生活行動の再獲得」ですが一朝一夕でできるものではありません。患者は急性で重症な病態であり、その患者は人工呼吸器管理中であるかもしれませんし、はたまた補助循環装着中かもしれません。多くの体内留置器具や機械類、ときには抑制帯により身体の自由を奪われ、自身で目的をもった行動をコントロールできない、そもそも様々な苦痛(トータルペイン)を抱えており意欲も減退しているストレスフルな状態かもしれません。
 では、どうすれば患者の自己コントロール感や意欲を高めて「生活行動の再獲得」に繋げることができるのか。どうにかこのような患者のエンパワーメントができないか…と考えていた時に、普段から用いているエンパワーメントってどんな概念だっけと立ち止まり、表題に繋がるのです。

エンパワーメントとは:この用語が最初に用いられたのは17世紀であり、「権利や権限を与えること」という意味で用いられたようです。その後、様々な時代で権利を主張する運動や反戦運動といった社会運動の際に用いられるようになってきます。論文としてエンパワーメントの文字が目立ってくるのは1980年代~1990年代あたりで、地域保健学や地域看護学、社会福祉学、心理学などのヒューマンサービスに関わる領域で用いられてきました。

このような時代背景からも分かるように、もともとはパターナリズムの強い時代の権利や権限に関する内容が語源となっており、エンパワーメントとは“パワーレスネス(パワーのない)”な状態である対象に用いられる用語ということが理解できます。

 エンパワーメントの定義としては多くの方が述べていますが、代表的なものとしてNystrom(1994)は、肯定的な自己概念、個人的満足感、セルフエフィカシー、達成感、コントロール感、満足感、自己開発、社会正義、および生活の質を高めるプロセスだと述べています。また、看護実践の場ではエンパワーメントを「無気力からの回復」、「コントロール感覚の再獲得」、「患者の権利擁護や人間の潜在力を重視した意思決定」、「自己決定に基づいたセルフケアや主体的療養行動への導入」の基盤になる概念とされています(村嶋:1997)。  
 それでは、前述したような脆弱性をもっている急性期患者にどのようにエンパワーメントできるか考えていた所、「急性期ケアの場面あるいは医学モデルのパラダイムに従った現場で働く保健医療職者がエンパワーする方策を展開することはなかなか難しい(Ilene:2007)」という記述を見つけてしまいました。なぜかというと、急性期ケアの場面では、患者ではなく医療者が「コントロール」しているか、パワーを持っているからだそうです。

 しばし意気消沈した後…筆者は考えました。しかし、本当にそうだろうか?たとえ急性期領域といえども、僕らが相手にする対象は“パワーレスネス”の状態で脆弱性を抱えています。ということは、エンパワーメントの対象ではあるはずです。可能な限り、患者の自己コントロール感を尊重できるように生活を支えていくことは、たとえ難しくても努力する必要があると考えます。例えば…、

・患者が普段何時に起きて、何時に寝ていて、電気の照度はどのくらいなのか決めてもらう。
・日中のケア計画(全身清拭、リハビリテーション)について、開始時間や目標などに患者の意向を含める。
・日中覚醒しているときにどんなTVをみたいのか選んでもらう。
・希望があれば、人工呼吸器装着中だろうと自身で鏡をみながら歯磨きをしてもらう。化粧水を塗りたいなどの要望にも、もちろん応える。
・持続鎮静中でも日中は覚醒を促し、新聞を読む、趣味の雑誌を読むなどを能動的におこな ってもらう。
・急性期患者の短期目標を一緒に設定して、目標達成に向けたリハビリテーションに主体的に励んでもらう。

 上記に挙げたような介入は、「パワーをもってコントロール」していると思われる医療者が“機会”さえ作ってしまえば案外達成できてしまうものです。患者の「生活の再獲得」に向けて、患者をエンパワーメントして自己コントロール感を保ちながら、能動的に療養環境でも“生活”できるように支える。急性期の看護師にできるひとつの方略なのかなと考えます。

 最後に、エンパワーメント現象が生じる6つの先行要件(Gibson,C.H)というものが述べられているので、これらを紹介して終わりにしようと思います。

1.人間は自分自身の健康に根本的に責任を負う
2.個人の成長する力、自己決定する力は尊重されなければならない。
3.人間は自らエンパワーするのであって、保健医療従事者が人をエンパワーすることはできない。しかし、資源を提供したり、開発することはできる(コントロール感・自己効力の獲得と強化)
4.保健医療従事者は、対象をコントロールしようとする欲求を放棄し、対象との協力関係を形成し、対象のニードを優先していく必要がある。
5.エンパワーメントが生じる条件は、ヘルスケア提供者とクライエントに相互尊敬の念が存在していることである。
6.エンパワーメントの過程の必要条件は、信頼である。

 結局は、対象を尊重し、信頼関係を構築し、能動性をもった成人に対して対象のニードにそった資源や機会の提供をおこなうことが望ましいということでしょうか。さて、今日も臨床を楽しんで頑張りましょう!!

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