<KCCC文献紹介 第91弾:近い将来にくるだろう医療者−患者コミュニケーションのあり方を考える(オンラインの活用)>
X Lu, Zhang R(2019) Impact of Physician-Patient Communication in Online Health Communities on Patient Compliance: Cross-Sectional Questionnaire Study. J med Internet Res. 21(5): e12891.
PMID:31094342
元論文:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMG6535977/
【背景】
中国では、医療資源活用の問題は緊迫しており、多くの病院は人口の多さや医療資源の偏在のために非常に混雑している。オンラインヘルスコミュニティ(OHC:Online Health Communications)は、病院の局在化の問題を緩和し、医療資源の活用を改善や医療資源の不足を軽減に対して重要な役割を果たす。OHCは、医師と患者の関係や健康上の転帰にプラスの影響を及ぼす。さらに、患者がOHCにおいて健康関連の情報を検索するための主な方法の1つとして、医師−患者間のコミュニケーションは色々な面で患者のコンプライアンスに影響を及ぼし得る。今後、OHCが必ず発展していくであろう未来を考えると、そこにはいくつかの欠点があるものの、医師−患者間のコミュニケーションがどのように患者のコンプライアンスに影響を及ぼし得るかを明らかにし、OHCを通して患者の健康転帰を改善するにつなげることは重要である。
【目的】
本研究は、(患者の治療に対する)自己決定に関する経験的研究を踏まえて、患者のインターネットによる健康情報に対する理解の質、患者の意思決定に対する前向きさ、および医師−患者の意見の一致を通じて、OHCにおける患者コンプライアンスに対する医師−患者間コミュニケーションの影響を調査することを目的とした。
【方法】
1つの独立変数(医師−患者間コミュニケーション)、3つの因子(患者に認識されるインターネット健康情報の質、患者の意思決定の前向きさ、医師と患者間の意見の一致)、1つの従属変数(患者のコンプライアンス)および4つの調整変数(年齢、性別、居住地域、教育レベル)によって研究モデルを組み立てた。さらに、423の有効な回答を含むWebベースの調査を用いてデータ収集を行った。これらのデータを分析し仮説を検証するために構造方程式モデリングと部分最小二乗法が採用した。
【結果】
質問票回答率は79.2%(487/615)であり、有効率は86.9%(423/487)であり、質問紙の信頼性と妥当性は許容範囲だった。OHCにおける医師と患者間のコミュニケーションは、患者のインターネットの健康情報に対する理解の質・患者の意思決定の前向きさ・医師と患者の意見の一致に対する仲介を通じて、患者のコンプライアンスにプラスの影響を与えた。さらに、医師と患者のコミュニケーションは、患者のインターネットの健康情報に対する理解の質、患者の意思決定の前向きさ、医師と患者の意見の一致性にも同様の影響を及ぼしていた。患者の意思決定の前向きさは、他の2つ因子と比較して、患者コンプライアンスに対して最も弱い影響を示していた。最終的に、3つの因子すべてが、医師と患者のコミュニケーションと患者コンプライアンスの間で、部分的に仲介する役割を果たしていた。
【結論】
OHCにおける医師と患者のコミュニケーションが患者のコンプライアンスに良い影響を与えていた。したがって、OHCで医師と患者のコミュニケーションを進めることで、患者のコンプライアンスを向上させることができる。さらに、我々の調査結果は、医師が患者と質の高い健康情報を共有し、患者と治療選択肢の利点、リスク、および費用について話し合い、患者の態度を表明し、健康関連の意思決定に参加するよう奨励すること、それにより患者の情報に対する誤解が減り、医師と患者の間に意見の一致性が高まる。OHCは、公表されている健康情報の品質管理を強化するだけでなく、情報品質に対するユーザーの実際の態度を理解してから、知覚された情報の質と実際の情報の質とのギャップを減らそうとする。
【私見】
この研究は、オンラインで患者と医療者がコミュニケーションをとっていくことの有効性を検証した、革新的な研究と言えます。医療資源の偏在化は、日本の医療・福祉でも大きな課題となっているため、テクノロジーの導入が進められています。いまや、テクノロジーやソーシャルネットワークにおいて世界一だと言われる中国で行われたこの研究は、今後の医療・福祉のあり方を考える上でも一つの視点を提供してくれています。
患者の意思決定には医療者との対話が欠かせないことは、誰しもが理解していることだと思います。この研究は、患者と医療者が対話するための場の設定の一つとして、オンラインでのやり取りの可能性を示してくれたわけですが、日本においてもこのような対話の形は進んでいくでしょう(研究者らも語っていますが、テクノロジーの発展は避けられません)。
しかしながら、医療者と医療者の対話の場としてオンラインを活用しているKCCCのようなコミュニティであっても、本当の意味でのコンセンサスを得ることの難しさを感じています(医療者同士だから、とも言えるかもしれませんが…苦笑)。患者の生活や医療のあり方をより良くするために、対話の機会や種類はいくらでもあっても良いと思います。少し飛躍した見解かもしれませんが、VR技術の導入などを活用することで、「あたかもその場にいるように対話ができる」ということも、できるようになるかもしれません。
ただ、対話の場の大原則として大切なのは、「意思決定の主体は患者である」ことだと思います。いくら便利なツールがあったとしても、そのツールを使うことを患者が望んでいるのか?といった視点を忘れないようにしていきたいですね。
