<KCCC文献紹介 第102弾:我々が考えるべきICU患者の孤独とは…>

Van Keer RL, Deschepper R, Huyghens L, et al.(2017) Mental well-being of patients from ethnic minority groups during critical care: a qualitative ethnographic study. BMJ Open 7(9): e014075. doi: 10.1136/bmjopen-2016-014075

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5623442/pdf/bmjopen-2016-014075.pdf

【目的】

少数人種の患者における精神衛生の状態と、集中治療領域においてこれらの患者の精神衛生上の問題へ繋がり得る要因について調査すること。

【研究デザイン】

エスノグラフィー(民族誌的質的研究デザイン)

【設定】

ベルギーにある複数の人種の患者を受け入れている都市部病院の集中治療室(ICU)

【研究参加者】

84名のICUスタッフ、10名の少数人種患者とその家族

【結果】

患者らには、医療専門家にも、家族にも、他の患者にも十分に頼ることができないという、いくつかの基本的なニーズがあった。これらには、社会的接触のニーズ、快適性を高めると共に痛みを軽減するニーズ、絶望を表明すると共に終末期の意思決定に参加するニーズなどが含まれていた。

患者らの間では、精神衛生上の問題に繋がり得るものとして相互作用する3つの危険因子が明らかとなった:

① 集中治療では、主に生物医学的なケアのアプローチがとられているということ(治療に焦点が当たっており、心理社会的支援が限られていること)、

② 集中治療の状況(時間的切迫性があり、不確実性、規制の枠組みなどを伴っていること)

③ 患者それぞれに異なる民族文化的背景があること(宗教の違いや表現の違いなど)

【結論】

集中治療領域における少数人種の患者の精神状態は、極端な感情的孤独によって特徴付けられる。集中治療スタッフは、それぞれの患者特有の精神衛生に関する基本的なニーズを適切な時期に明らかにするとともに、それらに合わせた関わりをすることが重要である。そこでは、患者自身が主に生物医学的介入を受けているということを踏まえた上での重要な脅威を考慮し、ICUという構造的な状況や患者それぞれの文化的背景を踏まえておく必要がある。

【私見】

 今回ご紹介する文献は、「ICUに入室している患者の孤独にはどのような状況や環境が影響しているのか」について調査したもので、特に少数人種の患者に焦点を当てた研究です。2020年の東京オリンピックや2025年の大阪万博など、インバウンドに係る問題は最近関心が向けられている事柄でもあります。皆さんの施設でも外国人旅行客や県外からの旅行客が患者として入院してくることもあるでしょう。そのような患者が、どういった孤独を感じ、それにはどのような要因があるのか?を考える上で、今回の研究は役立つと思います。また、この文献からは、研究結果のみならず、研究の方法(研究デザイン、特にデータ収集の仕方)からも学びを深められることができると思います。

 今回の研究で用いられた研究デザインは、エスノグラフィーという質的研究の手法です。この方法は、文化人類学という学問分野で頻用される研究手法です。文化人類学が研究の対象としているのは、「人間の生活様式全体(生活や活動)の具体的なありかた」です。これは、看護師がケアをする上で最も大切にすべきことのひとつですが、このような現象を数値で言い表すのは難しいものです。だからこそ、今回の研究のような研究の方法から学ぶことが大きいわけです。

 質的研究と聞くと、インタビューからのデータをもとに分析をすると考えがちですが、エスノグラフィーではインタビューデータはもちろんのこと、参加観察という手法で得られたデータが重要な分析対象となります。誤解を恐れずに簡単にお伝えすると、参加観察とは、「その場に入り込み、全ての出来事を見聞きすること」です。今回の研究では、ICUに入り込み、そこで行われている患者・家族と医療者の対話や医療者間の対話、スタッフ会議などを見聞きすることを繰り返しています(患者と交わした480回の会話、144回のスタッフ会議への参加、患者や家族と医療者が交わした375の対話など)。それらのデータを俯瞰してみることで見出したのが、研究結果です。

 我々が、目の前にいる患者の置かれている状況をアセスメントするとき、自分だけの考えに寄って立っていないか…、患者・家族に関わるヒト・モノ・場を理解できているか…。数字を読み解くだけでは見えない世界があるということを、こういった研究は教えてくれます。

 患者が「言いたくても言えない」要因を理解するには、身体的な影響(認知機能や意識レベル、構音障害などの問題)や治療の影響(鎮静薬の使用など)だけではなく、「ICUという環境が、そもそも患者の個別性に目が向けられにくい状況にある」ということを立ち止まって考える必要があるのかもしれませんね。

画像引用元:https://www.google.com/url?sa=i&rct=j&q=&esrc=s&source=images&cd=&cad=rja&uact=8&ved=2ahUKEwj79PmNz4HkAhX6yYsBHRi6AVYQjhx6BAgBEAI&url=https%3A%2F%2Fwww.washingtonpost.com%2Fnational%2Fhealth-science%2Floneliness-can-damage-health-triggering-inflammation-and-neurological-changes%2F2017%2F12%2F15%2Fe7211b84-df61-11e7-8679-a9728984779c_story.html&psig=AOvVaw0Uj5IgAiznjrvIRrnlh0kO&ust=1565846437539573

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