【トータルペインについて考えてみよう‼︎】

私たちは、毎日の臨床の中でトータルペインの視点で患者を捉えようと努めています。しかし、トータルペインについて説明を求められた時に正しく説明できるでしょうか?理解できているようで理解できていない自分がいることに気づいた方は、是非このコラムを参考にしてみてください。トータルペインとは、「身体的苦痛」「精神的苦痛」「社会的苦痛」「霊的苦痛(スピリチュアルペイン)」の4つが挙げられます。まずはそれぞれについて解説していきましょう。

・身体的苦痛:痛み、呼吸困難、全身倦怠感、消化器症状、口渇、睡眠障害、痙攣、臓器機能に関する苦痛などが挙げられます。こちらの苦痛に関してはイメージしやすいですよね。普段の臨床の中でスケールを使い評価し、苦痛の緩和を目指していると思います。近年のクリティカルケア領域のトピックである口渇ももちろん身体的苦痛に含まれますね。

・精神的苦痛:不安・抑うつ、苛立ち、怒り、孤独感、恐れ、せん妄などが挙げられます。こちらも看護師が患者に寄り添う苦痛として理解しやすいでしょう。ただ、せん妄が精神的苦痛に分類されるということは知らない方もいるかもしれません。せん妄とは本来の自分で在ることが困難な、苦痛を伴う症状であるということを再認識できます。

・社会的苦痛:仕事上の問題、経済的問題、家庭内の問題、人間関係、遺産相続などが挙げられます。入院前まで社会の中で立場や役割をもちながら生活していた方が、入院を機に一気に“患者”になってしまう状況をみることがあります。個人を取り巻く環境や疾病、あるいは医療者によって“患者”というカテゴリーに放り込まれて含まれてしまうのでしょう。本来その方は、尊厳をもった個人(person)であり、患者(patient)ではないはずなのにです。

・霊的苦痛(スピリチュアルペイン):穏やかさ、希望と絶望、痛みの意味、罪責感、宗教(超越した信念の有無)、基礎となる価値・信念、ライフストーリーなどが挙げられます。このスピリチュアルペインは臨床でどう解釈するべきか悩むことも多いと思います。日本人は宗教が生活の中にあまり強固に結びついていないため、祈りや人生の指針としての信念にまで至らないため、日本ではスピリチュアルペインのアセスメントやケアは考えにくいと感じる方もいるかもしれません。筆者も以前はそうでしたので、ここではスピリチュアルペインを理解する時に腑に落ちた理論をお伝えします。スピリチュアルペインとは、「時間存在」「関係存在」「自律存在」という自己の存在と意味の消滅という苦痛を抱えていることを指すとも述べられています。エンドオブライフにある患者であれば、死を意識することでの死までの“時間”に苦痛を感じることもあれば、死によって断たれる重要他者との“関係性”における苦痛があり、疾病によって自身のことを自身で行うことのできない“自律”存在が脅かされることでの苦痛も存在します。例えば、病院内という環境は自律存在が日々脅かされるリスクのある状態と考えられます。ベッドで臥床している方を“患者”としてみていると、単純な安静度や医療者のタイムマネージメントだけでADLに関する支援をしていないでしょうか?患者がひとりの尊厳をもった個人として入院生活におけるスケジュールを管理し、可能な範囲でセルフケアを行い、生活を意識した行動を促すことで自己コントロール感が保たれるかもしれません。このようなことも、一側面ではありますがスピリチュアルペインに関連すると思われます。その他にも、食事を取れないのであれば生きている意味がない、大切なあの人の側にいなければ私の人生の目的がない…など、患者の声により人生の意味や個人の信念が損なわれているのではと気づく症例もあるかもしれません。そう考えると、皆さんの臨床経験の中でもスピリチュアルペインは存在しますよね。

さて、ここまでそれぞれについて解説してきましたが、トータルペインはそれら単独でアセスメントするのではなく関連し合っているということを最後にお伝えします。きっと、この考え方はとても大事なのですが、その本質を掴めていない方も多いと思います。
例えば、身体的苦痛を抱えている方がいるとしましょう。その身体的苦痛は、単純に痛みや呼吸困難感により生活する上での大きな弊害になりますが、苦痛により自身の身体に起こっていることへの不安や恐れを抱かせ(精神的苦痛)、増強するにつれて死を連想させるかもしれません(スピリチュアルペイン)。苦痛の原因である疾病を治癒するための期間や入院は、その人の社会的地位を脅かすかもしれませんし、金銭的にもダメージを受けます(社会的苦痛)。皆さんは身体的苦痛の評価を日々行なっていると思いますが、スケールを用いて点数化するだけではなく、その苦痛を評価する意味やその先につながる苦痛の存在にも考えを巡らせ、ケアする必要があると考えます。このケアについては、またどこかのコラムでお話しできればと考えています。これを読んだ後、今までよりも少しだけ、日々関わっている尊厳をもった個人(患者)のトータルペインを意識するようになっていれば幸いです。そんな事例がありましたら、是非コメントして共有してください。

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