過去のコラム(http://bit.ly/2nutax3)の中でトータルペインについて何度か触れていましたが、本日は「苦痛は関連し合っている」という事象について、症例をもとにお話しさせていただきます。先日、このような症例を体験しました。

〜患者は、術後縫合不全のため1ヶ月程度保存的加療をおこなっていましたが、肺炎を併発し敗血症となり集中治療部門に入室された壮年期の方です。患者は入室直後から非常に強度な疼痛(NRS:10)を訴えていました。酸素化の悪化に加え、準緊急手術も予定されたため人工呼吸器管理が開始されましたが、麻薬性鎮痛薬と鎮静薬の投与を開始しても鎮痛は効果的ではありませんでした。

 術後、麻酔から覚醒した患者は手術創部や気管チューブに伴う疼痛と不快感の訴えがさらに強くなります。それは、一般的な術後疼痛の訴えよりも強度は強く、頻度も多い印象でした。新たな術後合併症を疑わせるほどでしたが、検査データや画像所見、身体所見からそのような所見はありませんでした。また、通常術後の体性痛であれば時間経過とともに減少していくものですが、5日経っても1週間経っても改善は見られず、一般的な術後疼痛の持続期間を超え長期化していきました。

 患者から表出される主な訴えは、①創部の痛みや呼吸苦、身の置き所のない漠然とした全身苦痛などの身体的苦痛、②先行きの見えない状況下の中で感じる不安や悲しみなどの精神的苦痛、③病室で感じる孤独感(そばにいて欲しい、手を握っていてほしい)などの関係存在に関するスピリチュアルペインなどでした。推察されるに、それ以外にも潜在的な苦痛は存在していたであろうと考えられます。患者は緩和困難な耐えがたい全身苦痛により、安楽な時間の確保が難しく、おそらく数日間は満足に休めていない状態だったと思います。

これらの訴えに対して、医療者は毎日の回診で痛みの原因や対策について検討し、体重当たり必要と思われる麻薬性鎮痛薬の使用とスイッチ(フェンタニルandモルヒネ)、複数の鎮静薬の高容量使用(プロポフォール、プレせデックスの使用、せん妄リスクを承知でミダゾラムの使用検討)、ケタラールなどの麻酔薬の使用、睡眠薬の投与、抗不安薬や抗うつ薬の使用検討などを試みましたが、効果は乏しく、ベッドサイドにいる看護師をはじめとした医療者の無力感は、鎮痛鎮静薬のフラッシュ頻度とパラレルに、日に日に高まっていきました。〜

…イメージは共有できたでしょうか?緩和困難な全身性苦痛を伴う困難症例でしたが、結果的にこの患者は徐々に不快な時間が減り、30分から数時間のまとまった休息の時間を確保できるようになっていきます。医療者がおこなったことは以下のような介入です。

①トータルペイン(身体的苦痛、精神的苦痛、社会的苦痛、スピリチュアルペイン)はそれぞれに関連しあっており、単独のペインに対する介入では改善が乏しいであろうこと、患者の苦痛の焦点化をおこないそれぞれに介入していく必要性をカンファレンスで共有する。

②身体的苦痛に関しては、薬剤効果の判定と適正量の調整を多職種で検討・評価を続ける。

③精神的苦痛やスピリチュアルペインに対して、患者の抱える死への恐怖や孤独感を緩和できるように落ち着いた環境で患者の声(筆談)に耳を傾け、手を握り、寄り添う(難しいですが、ただ側にいる、ただ声かけをするだけではなく患者に専心して空間と時間を共有する)という精神的苦痛へのケア、スピリチュアルケアをおこなう。

④患者の抱える先行きの見えない不安に対しては、家族のみならず患者とも誠実にコミュニケーションをとって情報共有する必要があるため、カンファレンス内で主治医に継続的なコミュニケーションを依頼する。患者にとって、主治医の訪室やコミュニケーションは希望であることを主治医には併せて伝える。

⑤上記内容を多職種で共有し、患者にとって必要なことは苦痛のない時間の確保だとして、休息が確保できるようなタイムスケジュールとケアの調整を図りました(ケアやリハビリなどの活動と休息の調整)。

 これらの包括的な取り組みは少しずつ成果がでて、短時間ずつではありますが患者は休息の時間が確保されるようになってきました。評価としては、やはり苦痛は関連しあっているということです。あれだけ効かなかった薬剤も、精神的苦痛へのケアやスピリチュアルケアによる後押しをすることで、やはり薬剤効果はあるのだと実感・評価できました。徐々に薬剤の減量も可能になっていきました。改善のトリガーになった「寄り添う」という精神的・スピリチュアルケアですが、もちろん単独のケアのみでは不足があったと思われます。苦痛のアセスメントとそれらに応じたケアの選択がとても必要だと感じた症例でした。

 皆さんもこのような経験があるのではないでしょうか?臨床実践をおこなう中で、ひとつひとつの症例を丁寧に紐解き、次の困難症例に立ち向かう勇気に繋げていきたいですね。

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