<コラム94:輸液シリーズ③ “足らなきゃ、ガイエキで補充しとけ!は危険…?” >

 輸液療法の目的は、水分補給および電解質補給ですが、これを「周術期の輸液」に限定すると水分補給、なかでも前負荷維持が中心的な目的となるでしょう。前負荷の維持は心拍出量の維持に不可欠であり、心拍出量が維持できてはじめて末梢の臓器や組織に十分な酸素が供給されます。前負荷維持に最適な輸液負荷量について概念的に分かりやすく表現すると図1のようになります。この図は、輸液量が多すぎると機能性イレウス、縫合不全、呼吸不全、心不全などのリスクが増し、逆に少なすぎると術後悪心・嘔吐(PONV)、腎不全、心筋虚血などのリスクが増す、ということを表しています。

図1 輸液最適化のイメージ

 患者の状況によって最適な輸液負荷量は異なり、画一的な輸液管理ではなく、個々の患者において適正な循環血液量および適正な心拍出量・酸素供給量を保つことを目標とした「目的指向型輸液管理 (Goal-directed fluid management:GDFM)」が術中〜術後の輸液管理では中心的な輸液戦略として用いられています。この輸液戦略は、術中~術後は“ガイエキを投与し過ぎるな!”という考え方です。その主な根拠(?)は、以下のとおり…

 

≪足らない分をガイエキ(晶質液)で補充するのは危険≫

 健常な状態のヒトの体液は体重の約60%であり、そのうちの2/3が細胞内に、残りの1/3が細胞外に分布しています。さらに、細胞外液では約3/4が間質液、約1/4が血漿として血管内に存在しているため、細胞内液量:間質液量:血漿量=8:3:1となるように分布しています。従来、この体液分布になぞらえて、細胞外液として投与された輸液のうち1/4は血漿内に留まると考えられていました(https://www.facebook.com/1187559671272713/posts/2994958907199438/)。

 しかし、この古典的な考え方に疑問を呈する研究結果がいくつか報告されています。

 多田羅ら(2011)が行なった輸液時の体液動態シミュレーションでは、ガイエキを短時間で投与(晶質液10mL/kgを30分で投与)した場合、投与されたガイエキは投与終了後約30分間で血管内から間質内へ移動し、投与終了2時間後には血管内にほとんど残らなかったことが報告されています(図2)。また、健康成人を対象に急速に血を抜いて急速にガイエキを補充した(45分間で1000mlの瀉血に引き続き、30分間で乳酸リンゲル液3500mlの投与)ところ、血管内に残存した割合が17%程度しか保持されていなかったという研究結果や、ガイエキの急速投与は血管内に保持されにくいという研究結果(この研究では、逆にゆっくり投与することで血管内に保持されやすかったことも示されています:図3)も報告されています。

図2  晶質液輸液後の体液動態シミュレーション

図3 投与速度により異なる晶質液の血管内残存割合

 

このように、輸液時の体液量変化は動的であり、“投与した晶質液の1/4が血管内にとどまる”という固定概念に従って、「“足らない分は急いで晶質液で補充する”という従来の輸液管理はアウトカムを悪化させる」かもしれないということです。

ヒトの体がヤサイでできている(https://www.facebook.com/1187559671272713/posts/2962206070474722/)からといって、輸液の仕方もそれに合わせればよいという単純なものではないことがご理解いただけたでしょうか?次回は、術後の輸液管理さらに複雑にさせる考え方の代表格、「サードスペース」についてお話をします。

参考文献:

  • 多田羅恒雄(2011)輸液ルネサンス, 臨床麻酔 35; 161-169
  • Jacob M, Chappell D, Hofmann-Kiefer K, et al.(2012)The intravascular volume effect of Ringer’s lactate is below 20%: a prospective study in humans, Critical Care 16; R86
  • Hahn RG(2010)Volume kinestics for infusion fluids, Anesthesiology 113; 470-481

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