【コラム123:ICU入室患者の睡眠の質の向上を考える】

2020年になり、1週間が過ぎてしまいましたね。年末年始、お仕事だった皆さんお疲れ様です。連休を謳歌された皆さんもお体ご自愛ください。私はというと、仕事と私用で「寝正月」ならぬ「寝ず正月」でした。そんな中、元旦にICU入室患者さんに日付を伝えると「おめでとうございます」と気管内挿管のまま返事をもらうことができ、一気に疲れも吹き飛ぶような気持ちでした。さて、文献紹介 第126弾「ICU入室患者は眠りたくても眠れない?」の末尾で書かせていただいた、私の所属施設のICUで行っている睡眠に対する看護ケアについて紹介したいと思います。

【背景】

 近年、集中治療室(ICU)における重症患者の救命率は著しく向上しています。しかし、その一方で集中治療後症候群(PICS)が問題視されています。PICSのリスク因子としては、不動性・人工呼吸器管理日数・ICU滞在日数・深鎮静・せん妄・敗血症・ARDS・低血糖・低血圧などがあります。昨年度、私の所属施設のICUではABCDEバンドルのD:せん妄のモニタリング、E:早期離床にアプローチを行い定着してきています。今年度は、PICS予防としてPADISガイドラインに新たに追加されたS:睡眠に注目しました。ICU入室患者には多くの睡眠障害の要因が存在し、患者の睡眠の質は低下すると考えられます。その結果、患者はICU退室後さらには退院後も不眠に悩まされていることは、前回の文献紹介でも触れさせていただきました。睡眠には、エネルギー消費の減少・備蓄、組織の修復、代謝・免疫機能の最適化の役割があり、障害されると呼吸・循環障害、免疫機能低下による病態治癒遅延、易感染状態などの身体症状や、不穏、外傷後ストレス障害、うつ、疼痛耐性の低下、認知機能障害、せん妄などの精神症状を引き起こします。そこで、ICU入室患者の睡眠の質を向上するために以下の実践を今年度から導入しています。

【実践】

①睡眠チェック表の導入

ICU入室患者に対して使用できるような睡眠チェック表を作成(睡眠を客観的にモニタリング、行なった処置や看護ケア、BPS、NRS、RASS、GCS、CAM-ICU、患者の主観的な熟眠感が記入できる)、不眠やせん妄症状などのエピソードのある患者に対して使用しています。

②リエゾンラウンドとの連携

 私の所属施設では、精神科医師、認知症看護認定看護師、救急看護認定看護師、集中ケア認定看護師、薬剤師、医療相談員が中心となって精神科リエゾンラウンドを1回/週行なっています。しかし、患者1名をラウンドする時間を考慮すると、院内で3名程度の枠しか作ることができず優先順位を付けざるを得ない状況となっています。そこで、リエゾンラウンドの選考にもれた患者を対象に、認知症看護認定看護師が看護ケアのアドバイスを行うためにラウンドを行うシステムが運用されています。

 ICU内でリエゾンラウンドを依頼する手順は、まず睡眠チェック表を記入し、不眠やせん妄などがあればリエゾンラウンドに介入依頼をします。ただし、睡眠チェック表を記入する前でも、せん妄が疑われるような場合は早期からリエゾンラウンドに介入依頼を行なっています。リエゾンラウンドでは、環境調整や直接的ケアだけではなく、薬剤調整や精神科介入の必要性についてアドバイスなども受けることができ、即座に実践につなげることができます。その後も、1週間ごとにリエゾンラウンドフォロー日が設けられており、ICU退室後も継続してフォローを受けることができます。

③せん妄予防・睡眠に関する看護ケアの言語化・実施

 ICUスタッフ同士で声を掛け合いながら、せん妄予防や睡眠に関する看護ケアを実施しました。実際に看護記録から読み取ることができた看護ケアの一例としては、以下のものがありました。

■環境調整

・患者が臥床したままでも見えるように、その都度時計の位置を調整する

・窓からの自然光が入るようにベッド位置の調整を行う

・ベッドサイドモニターの画面をスリープモードにするなど、光の刺激を可能な限り取り除く

■直接的ケア

・気管内挿管などの医療デバイスが挿入されている患者に対して、鏡を見てもらいながらリアリティオリエンテーションを行う

・患者と相談し、夜間はアイマスクや耳栓を使用する

・患者の入眠状況を観察しながら、検温や体位変換などのケアの時間を調整する

■薬剤調整

・気管内挿管中から、せん妄のリスクが高いとアセスメントされた患者に対して、医師と相談しスボレキサント(ベルソムラ®︎)など薬剤投与の検討

・疼痛があると考えられる患者に対して、眠前に鎮痛薬の増量や頓用の鎮痛薬使用を考慮

・入眠に向けて、患者と相談しながら夜間帯の鎮静薬(主にデクスメデトミジン=プレセデックス®︎)増量を考慮

【振り返りと課題】

今年度から導入した睡眠チェック表を記入することで、1日を通して患者の睡眠や覚醒のリズムを客観的に見ることができるとともに、行なっているケアを可視化することができたと考えられます。また、朝に患者の主観的な熟眠感を聞くことにより、客観的データのアセスメントで行なっていたケア介入から、患者主体のケア介入ができるようになってきていると考えられます。しかし、昨今の電子化に逆行する形で手書きツールを使用している点では、スタッフの業務量が増えることも危惧されます。そのため、可能な範囲内で電子カルテ内に移行できるようなシステム作りも重要になってくると考えられます。

リエゾンラウンドと連携しアドバイスを受けることで、 ICUスタッフの不眠やせん妄に対する認識の変化をもたらし、看護実践能力の向上につながっているのではないかと考えられます。さらに、効果的な睡眠の質を向上するための援助やせん妄ケアが行えるようになることによって、スタッフの困難感や疲弊感の軽減にもつながるのではないかと考えられます。そして、何よりも患者にとって在院日数や不必要な薬剤の使用、せん妄に起因する事故発生率の減少につながると考えられます。実際、リエゾンラウンドのメンバーからICU退室後の患者の不眠やせん妄が長引く事例はほとんどないとコメントをもらっています。

以上が、私の所属施設のICUで今年度から行なっている睡眠に関する看護ケアです。まだまだ、カイゼンの余地がたくさんあると感じていますが、皆さんの施設ではどのようなことをされていますか?小さなことでも結構ですので、患者の睡眠の質の向上のために行なっている看護実践についてコメントいただき意見交換できたら幸いです。

画像引用元: https://toyokeizai.net/articles/-/203006

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