<文献紹介:せん妄はバイオマーカーで予測できるのか?>

「この患者さん…. せん妄になりそう…」

臨床現場では、そんな予知的な感覚を持ちながら患者さんと関わる機会があるのではないでしょうか。確かに、高齢であるとか、既知の認知症を持っているなど、様々なリスク因子がせん妄のリスク因子として明らかになっています。では、細胞レベルではどうでしょうか?! 入院時に取得したバイオマーカーからせん妄の発症の重症度や長期化の程度を予測することができれば、「あの人はあるバイオマーカーが高かったから、もう少しICUでみておこう。病棟に転棟するのは早い。」なんて予測的に関わることができるかもしれません。そんなこと未来を感じる文献をご紹介します!ちなみに、病態生理学からみた場合、せん妄は全身炎症反応・神経保護障害・星状膠細胞・小膠細胞活動に焦点があたっています。

ご紹介する文献

Khan, B. A., Perkins, A. J., Prasad, N. K., Shekhar, A., Campbell, N. L., Gao, S., et al. (2019). Biomarkers of Delirium Duration and Delirium Severity in the ICU. Critical Care Medicine, 1. 

URL:http://doi.org/10.1097/CCM.0000000000004139

目的:

 ICU患者のせん妄期間とせん妄の重症度に関連する血清バイオマーカーは特定されていない。そのため、せん妄持続時間、せん妄の重症度、院内死亡率に関連するバイオマーカーを特定するために研究を実施しました。

【研究方法】

研究デザイン:観察研究

患者:ICUに入室した18歳以上の患者

CAM-ICUを用いてせん妄(陽性)となった患者

除外基準

・重度の精神障害、

・重度の認知機能障害・認知症

・失語症を伴う脳卒中

・アルコール離脱型せん妄

・妊娠中の患者

評価頻度:2回/日(訓練を受けた研究助手)

【測定指標】

せん妄の有無

RASS/CAM-ICU

せん妄重症度

CAM-ICU7

CAM-ICU7

せん妄の重症度は、RASSおよびCAM-ICUから派生した7点評価尺度(0~7)で評価している。範囲は0~7で、 0–2:せん妄なし、3–5:軽度から中程度のせん妄、6–7:重度せん妄

バイオマーカー

■インターロイキン6

■インターロイキン8

■インターロイキン10

■腫瘍壊死因子(TNF-α)

■CRP

■インシュリン様成長因子(IGF-1)

■アストログリア細胞(星状膠細胞)において細胞質の主要な部分を占める酸性たんぱく質(S-100β) 

【結果】

●研究対象者概要:321名のせん妄発症患者

ー平均60歳(52-69)

  ー男性44.2% 女性55.8%

ーAPATCHⅡスコア 21(15-26)

年齢、性別、急性生理学および慢性健康評価IIスコア、チャールソン併存疾患スコア、敗血症診断および研究介入グループ

●アウトカム

せん妄期間:平均2日(0-4)

1週間の内、せん妄/昏睡のない日数 5日(2-7)

1ヶ月の内、せん妄/昏睡のない日数 26日(19-29)

1週間の内、せん妄重症度 3.8(1.6-5.8)

退院までのせん妄重症度  2.8(1.3-4.6)

ICU入院期間 10日(5-17)

入院期間 12日(8-21)

ICUでの死亡率 9.4%

入院中の死亡率 10.9%

せん妄/昏睡がない日(Delirium/Coma free days)との関係性

インターロイキン-6、-8、-10、CRP・S-100βレベルが最も高い群(四分位範囲で上位25%)は、せん妄/昏睡がない日数(1週間および30日まで)で負の関連があった。

IGF-1レベルが最も高い群(四分位範囲で上位25%)は、せん妄/昏睡がない日数(1週間および30日まで)と関連がなかった。

せん妄重症度との関連性

インターロイキン-6、-8、-10、TNF-α、CRP、S-100βレベルがが最も高い群(四分位範囲で上位25%)は、せん妄の重症度(1週間まで)と正の関連があった。

インターロイキン-6、-8、および-10は、せん妄重症度と正の関連が退院時まで続いた。しかし、TNF-α、CRPは低下したため、せん妄重症度と関連性は消失した。

IGF-1とせん妄重症度との関連はみられなかった。

【結論】

全身炎症性反応、星状膠細胞の活性化を示すバイオマーカー上昇は、せん妄持続時間、せん妄の重症度と関連していた。

せん妄の初期段階で、これらのバイオマーカーを評価することでせん妄持続時間・重症度の予測に役立てることができる。

【私見】

重症疾患に罹患した場合、重症であればあるほど、全身炎症性反応は強く、そして遷延する印象があります。そう考えると、CRPやインターロイキンなどの炎症性メディエーターの上昇がせん妄の重症度や持続期間と関連しているというのは納得ができると思います。

また、星状膠細胞・小膠細胞は脳内の血流・栄養などの維持に影響を与えていると言われ、重症疾患に罹患した結果、脳血流の低下によって神経障害が発生するのを防ぐために星状膠細胞は活性化され、S-100βが放出されます。そのため、Sー100βは神経障害の程度を示すバイオマーカーとして有用とされています。

せん妄は急性期に生じる一種の神経障害と考える説もあり、重症疾患に罹患した結果、重症であればあるほど、神経障害が生じSー100βの放出量が増加する可能性が考えられます。そのため、結論で述べている「全身炎症性反応、星状膠細胞の活性化を示すバイオマーカー上昇がせん妄の重症度に関連している」という論理はとても納得ができます。

しかしながら、これらの結果から「このバイオマーカーを測定してせん妄の重症度や持続の程度を評価しよう! 臨床応用してみよう!」と思うかというと、そこまで単純ではないように思います。

重症であればあるほど、バイオマーカーは上昇する。そして、バイオマーカーが高値であれば「せん妄はより重症で、持続する」となれば、SOFAスコアやAPATCHⅡスコアなどで重症度評価をするのと何ら変わりがないように思います。そのため、わざわざインターロイキンなど特殊なバイオマーカーを検査する必要はないように思います。

ここまで、ネガティブなクリティークをしてしまいましたが「バイオマーカーでせん妄の重症度・持続時間を「予測」するという考え方は、とっても面白いと思っています!

というのも、ICDSCやCAM-ICUで日々評価を行っていますが「せん妄が今あるか、24時間以内(測定時間内)に生じているか」という限定的な部分しか現時点では評価ができれおらず、患者の今後の状況を判断・予測を根拠をもって行うことができていないのが現状です。

バイオマーカーを利用して患者の生じる合併症・副作用などがある程度予測できるのであれば、より気をつけて患者に介入をこうじることができるので、今後もこういった研究が増えて、多くのことが解明されたらいいなと思います。

ちょっと、難しい内容だったかもしれませんが、「せん妄」と聞くとCAMーICUやICDSCなどのスケール評価が重要視されるため(それが、せん妄のスクリーニングに必要なことなんですが)、それに何か違った知見を提示できればと思って、このような文献をご紹介しました!

画像引用元:https://theladdermn.org/2019/02/25/next-session-at-the-ladder-neurology-march-9th/

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