<KCCC文献紹介 138段:自然光への暴露は人工呼吸患者のせん妄を予防できるのか>

本日は、「せん妄予防に対する非薬物療法」に関する文献をご紹介したいと思います。

皆さんが仕事をされている集中治療室はどのような環境でしょうか。カーテンで仕切られていて、オープンスペースになっている。または、壁や扉で仕切ることができる個室がある病院もあるかもしれません。当院のICUは構造上、窓がある部屋とない部屋があったりします。窓がない部屋で過ごされている患者さんは、今が朝なのか夜なのか、一日の流れが分からないとよく言われます。また、フロアで過ごす方は、周囲の音が気になるという方もいます。そういった訴えを聞く度、「過ごしている環境が患者に影響を与えている」、そして、「環境調整を行うことの重要性」について考えるきっかけをもらっているように思います。では、実際、このような環境調整が患者にどのような効果をもたらしているのでしょうか。

今回は「窓がある環境(自然光を取り入れることができる)、窓がない環境」の違いがせん妄に影響があるかを調査した研究をご紹介します。

ご紹介する文献

Impact of natural light exposure on delirium burden in adult patients receiving invasive mechanical ventilation in the ICU

a prospective study. 

Smonig, R., Magalhaes, E., Bouadma, L., Andremont, O., de Montmollin, E., Essardy, F., et al. 

(2019). 

Annals of Intensive Care, 9(1), e825–8. 

URL: http://doi.org/10.1186/s13613-019-0592-x

【研究方法】

研究デザイン:単施設、前向き観察研究

研究期間:2016年1月3日から2017年1月3日まで

研究施設:フランスの大学病院にあるICU(20床:ICU、6床:HCU)

研究対象者:

選定基準:2日以上の人呼吸管理が予測される患者

除外基準:

2日以内の人工呼吸管理

入室前に1日以上、人工呼吸管理を受けていた患者

急性脳症害

せん妄の判定が困難な患者(失明、難聴、認知症)

介入群:窓があり自然光が差し込む明るい部屋に入院する

対照群:窓がなく電気をつけないと暗い部屋に入院する

※どちらの部屋を使用するかの選定基準はない

※入室後は基本的に初めに入室した対応の部屋で過ごす

データ収集

せん妄評価:ICDSC、1日2回

せん妄の判定:1日のうち、1回でもICDSC≧4であれば「せん妄」

せん妄発症は連続2日以上の「せん妄」判定をもってせん妄と判断する

ICDSCのサブ項目「幻覚」が陽性であれば「幻覚」と判定

【結果】

研究対象者:195名

介入群:110名

対照群:85名

●研究対象者属性

両群間の年齢、性別、既往歴、重症度などの背景データに差はみられなかった。

●部屋の明るさの変化

介入群(窓があり自然光を取り入れた部屋)で日中の時間帯(10時、14時、16時)において、有意に明るい結果であった。

●せん妄発症度

せん妄発症率

介入群:64%、対照群:71%(p=0.28)と有意差はない。

note用のデータ作成.001.jpeg

治療が必要な不穏症状の出現、幻覚の発症率は対照群で多い結果であった。

これらのリスク比を計算すると、

窓がなく暗い部屋(対照群)に入室した患者に比べて、窓があり自然光が差し込む部屋(介入群)に入室した患者の方が、「治療が必要な不穏」、「幻覚」の発症率が低い結果でした。

note用のデータ作成.001.jpg

せん妄発症リスク比:0.89 95%信頼区間0.73-1.09

治療が必要な不穏の発症リスク比:0.52 95%信頼区間0.27-0.98

幻覚発症リスク比:0.49 95%信頼区間0.24-0.98

【結論】

自然光への暴露(日光浴)はせん妄の発症率を変化させなかったが、

窓のある部屋での管理は重度の不穏に対して予防的な効果がみられた。

【私見】

如何でしたでしょうか?!

「人工呼吸管理下の患者のせん妄発症リスクを低下させる」という研究の目的は達成できませんした。しかしながら、患者の不穏(リスク比 0.52)や幻覚(リスク比 0.49)の発症リスクの減少に繋がっていることがわかります。わずかな違いではありますが「ブラインドやカーテンを開けて自然光を取り入れる」といった環境調整が大切なケアであることを支持してくれる大事な結果だと思います。ですので、集中治療室や病院の構造上、実践できる施設は意識して取り入れてみてもいいといいのではないでしょうか。

ただ、本研究も「盲検化」という研究方法上の限界があります。医療者・患者にこの介入(窓がある・ない部屋への入室)を分からなくすることはできません。研究に同意され、入室している部屋がみれば介入群なのか対照群かは一目瞭然になります。そのため、何かしらのバイアスが生じている可能性は否定できません。

個人的には、せん妄・不穏だけではなく、自然光への暴露が「睡眠の質」に影響するかどうか、ICU退室後の精神症状などに影響はどうかといった部分も気になるところではあります。また、介入が患者さんの「回復への意欲」に影響を与えているのではないかとも思っています。他のアウトカムに関しても今後、研究がすすみ明らかになればいいなと思うのと同時に、環境調整といった非薬物療法の必要が認知される形になればと思います。



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