【KCCC文献紹介 第145弾:医療従事者のメンタルヘルスにおけるSARSの教訓】

Robert G. Maunder, Molyn Leszcz, Diane Savage,et al:Applying the Lessons of SARS to Pandemic Influenza An Evidence-based Approach to Mitigating the Stress Experienced by Healthcare Workers. Can J Public Health. 2008 Nov; 99(6): 486–488. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5148615/

タイトル:SARSの教訓をパンデミックインフルエンザに適用する:医療従事者が経験するストレスを軽減するためのエビデンスに基づくアプローチ

新型コロナウイルスの流行により、都市部を中心とした多くの病院施設で医療崩壊が始まっています。病院を支える医療従事者のメンタルヘルスについて、過去のSARS流行時にさかのぼって文献の一つを紹介していきます。

<概要>
 重症急性呼吸器症候群(SARS)の発生は、異常な感染の発生が医療従事者に永続的なストレスを引き起こすことを示しました。深刻なパンデミックは、高い死亡率、高い医療需要、医療従事者間の欠勤、基本的な医療用品の消費、および異常なストレスを引き起こします。これらは、医療従事者の3分の1から半分に重大な苦痛をもたらしていました。このレビューの目的は、エビデンスに基づくアプローチにより、パンデミックの前に医療システムの回復力を構築することで医療従事者の苦痛を軽減することです。

 医療従事者の抱えるより大きい苦痛は、隔離、SARSによる同僚の治療、感染の恐れ、家族の健康への懸念、仕事上のストレス、対人関係の孤立、および汚染しているという他者からの知覚と関連していました。SARSの経験は、「感染管理手順による対人距離の増加」、「汚染しているという他者からの知覚と対人回避」などによる社会とコミュニティの相互作用減少などが理由で、医療従事者の社会的孤立に影響しました。そして、家族のサポートは通常ストレスを和らげますが、愛する人に感染するかもしれないというリスクと、親である医療従事者が病気の場合の子供たちの世話の懸念のために、SARS中に子供を持つ医療従事者はより高いレベルの苦痛を経験しました。

 集団発生の解決から2年後、SARS患者を治療した病院のヘルスケアワーカーは、他の同様の病院のワーカーに比べて、慢性ストレスの徴候の率が大幅に上昇しました。これらには、専門家の燃え尽き症候群(30%対19%)、抑うつおよび不安症状(45%対30%)、喫煙、飲酒または問題行動の増加(21%対8%)、およびストレスや病気(22 %vs 13%)などが挙げられました。重要なのは、影響を受けた病院の医療従事者は、患者との直接の接触が減少する可能性が高かった(17 %vs 8%)。および、勤務時間の短縮(9%対2%)がみられました。しかし、うつ病、心的外傷後ストレス障害またはその他の精神疾患の発生率は上昇しなかったため、SARSの長期的な影響は主に亜症候性ストレス反応症候群の範囲内とされました。
 これらのストレス反応に対しては、健康な人における適応や回復のための臨床介入モデルから離れて、パンデミック関連のストレスを減らすためのモデルについて考えをシフトすべきだとしています。

 長期のSARSストレスのメディエーターは介入のターゲットになる可能性があります。ヘルスケアの経験が長い医療者、および効果的に訓練されサポートされていると感じた医療者の病院では、慢性ストレスはより低かったとされています。半面、自己責任の回避戦略を用いて対処した医療者は、慢性ストレスがより高いと報告されました。

個人の回復力の育成 
 回復力とは、苦痛を伴う出来事の影響を減少させる能力です。悲惨な出来事の予期と準備による影響を軽減する能力、または発生したら「立ち直る」能力です。個人の回復力に対する2つのエビデンスアプローチについてです。深刻な出来事の間の精神的安寧の維持をするためのフォークマンとグリアのフレームワークは、肯定的な感情や効果的な適応を回復するように設計された一連の評価と対処プロセスを説明します。多くの医療従事者にとって経験したことがあるであろうコーピングアプローチ:自分のコントロール内にある出来事の問題解決(問題解決型コーピング)、孤立を減少したりサポートを強化するための感情ベースのコーピング(情動中心型コーピング)などです。このフレームワークは柔軟性を促進し、苦痛と対処は非常に個人的であり、経験、価値観、期待に依存します。感染症に対応する医療従事者には不足があるかもしれません。

 私たちが提唱する2番目のアプローチは、心理的応急処置です。これは、回復力を即座に促進するための証拠に基づくアプローチです。医療従事者は、事前のメンタルヘルス教育を受けなくても、心理的な応急処置を学ぶことができます。さらに、他者をサポートすることを学ぶことはまた、プロバイダーの回復力を高めるかもしれません。ストレスを受けている彼らは援助を望んでいるか、または必要としています。安全と快適さを高め、トラウマの生存者がニーズを特定し、情報を提供することで苦痛を軽減するための敬意のあるアプローチを教え、社会的なつながりを促進します。

組織の回復力の育成
 医療組織の回復力は、組織内の人々の回復力を超える要因の影響を受けます。ただし、組織の回復力は、危機の最中および後に職場のストレッサーを緩衝することにより、個々の回復力に貢献する場合があります。パンデミック発生前の重要な課題です。組織の回復力は、危機の前に準備を確立することに依存します。パンデミック計画では、重要な準備(たとえば、備蓄)の必要性が指摘されています。さらに、組織の回復力のビジネスモデルは、バックアップ計画と後継計画の価値、柔軟性と効果的なリーダーシップの中心的な役割を強調しています。SARSアウトブレイクは、効果的なトレーニングの重要性を示しています。そして、パンデミックの前に準備が必要です。これにより、危機時に公式および非公式のサポートの基礎を提供できる協力的で学際的な関係を指します。ヘルスケア組織も回復の強化から利益を得るかもしれません。
 2つの構成要素は、組織の回復力の文化を構築するために特に適用されます。まず、魅力的な病院であること、近隣の病院よりも効果的に看護スタッフを募集および保持できる能力の特定、ケア提供者による分散型意思決定、柔軟なスケジューリング、継続教育への投資、およびユニットレベルの自治を特徴としています。魅力ある病院は患者の死亡率が低く、スタッフのバーンアウト率も低い傾向があります。SARSの経験では、危機的な出来事の間に分散型の意思決定が階層構造に道を譲る必要があるかもしれません。
 組織の正義は、従業員の身体的幸福度の向上に関連する大規模組織の2つのさらなる特徴を説明しています。組織の正義には、管理者が従業員の視点を考慮に入れ、自分の偏見を抑制し、部下と公正かつ誠実な方法で対応する度合い(関係正義)と、正式な意思決定手順の公正(決定的正義)が含まれます。したがって、通常の機能中に患者とスタッフの両方の利益に役立つ組織目標も、関係を構築する可能性があります

結論
 パンデミックインフルエンザに備えるには、病院レベルでのマクロレベルとミクロレベルの両方に注意を払う必要があります。パンデミックへの準備の複雑さと、専門家間の関係を構築および維持することの固有の価値は、組織全体のコラボレーションによるパンデミックの計画を論じています。心理社会的ストレスを減らすための計画には、精神医学、心理学、看護、ソーシャルワーク、牧師、従業員の健康、コミュニケーション、および病院管理、心理社会的レジリエンスとパンデミック計画の他の側面(感染管理、人的資源、リスクコミュニケーションなど)の間の重要なリンクも、幅広い計画プロセスから恩恵を受けます。

私見
 この文献では、主に過去の経験からパンデミックが起きるまでの準備に焦点が当てられています。しかし、文献中にもあったように医療従事者のストレスが過大であることは周知の事実です。個人的に重要だと思う部分にアンダーラインを引いています(以下)

  • 社会とコミュニティの相互作用減少などが理由で医療従事者の社会的孤立に影響におよぼす
  • SARS中に子供を持つ医療従事者はより高いレベルの苦痛を経験している
  • 自己責任の回避戦略を用いて対処した医療者は、慢性ストレスがより高い傾向にある
  • 組織の回復力は、危機の前に準備を確立することに依存する
  • 組織の回復力のビジネスモデルは、バックアップ計画と後継計画の価値、柔軟性と効果的なリーダーシップの中心的な役割を強調する
  • (組織の回復力を高めるための構成要素として)ケア提供者による分散型意思決定、ユニットレベルの自治が必要である
  • 組織の正義には、管理者が従業員の視点を考慮に入れ、自分の偏見を抑制し、部下と公正かつ誠実な方法で対応する度合い(関係正義)と、正式な意思決定手順の公正(決定的正義)などが必要だる

 個人の回復力を高めるための具体的な方法は「ストレスコーピング理論、心理的応急処置」以外あまり述べられていませんが、医療従事者が孤立(隔離)しがちになってしまうこと、それらをサポートする体制が必要であること、医療従事者個々の精神的安寧の維持を個人に任せるのではなく組織がしっかりと計画すること、などが必要なようです。

 文献中にあった組織の回復力に関しては、リーダーシップや指示系統の確立が必要だと思います。しかし、既に破綻していると感じる施設も多いかもしれません。規模が大きければより感じやすいかもしれません。ですので、ユニットレベルからボトムアップで意見を上申すること、必要であればユニットレベルでの自治体制を構築し組織に承認をもらうこと、なども含めて組織力の再構成を行う必要があるのかもしれません。

最後に、WHOが提示している”Coping with stress during the 2019-nCoV outbreak”と題するパンフレットでは、
・悲しみやストレス、恐怖、怒りを感じるのは当然のことです。
・友達や家族などの信頼できる人と話すことが役立ちます。連絡を取ってみてください。
・自宅で過ごさないといけないときは、食事や睡眠、適度な運動、メールや電話などで家族や友人と社会的なつながりを維持するなどの健康的な生活スタイルを維持しましょう。
・タバコやアルコール、不適切な薬剤に頼るのはよくないです。つらいときは、カウンセラーなどの専門家に助けを求めましょう。
・正しい情報を把握しましょう。正しい情報と知識は適切な対処行動をとることの役に立ちます。
・不安を煽るようなメディアを見る時間を減らして、心配や焦りも減らしましょう。
・自身の過去のコーピング体験を思いだしましょう。感情を制御するのに役立ちます。

とあります。最前線で日々従事されている皆様、どうかあなたの体と心の健康を大切に考えてください。そしてそのサポートを周囲に、組織に求めてください。病院施設としての距離は離れていますが、同じ医療従事者として共に頑張りましょう。

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